引き継いだ現場で「あの2人は替えて」と言われた。本人たちには、たぶん突然だった。

警備業界・零細企業

ある自治体関連施設の警備を、入札でうちの会社が受け持つことになった。

入札で取った案件だった。

施設警備の入札では、受注する会社が替わっても、現場の警備員はだいたいそのまま引き継ぐ。

珍しいことじゃない。

考えてみれば当たり前で、契約が切り替わった日から会社の名前だけ替わるからといって、その現場を何年もやってきた警備員を、その日を境に全員入れ替えるなんて無理がある。現場のことは、前からいる人がいちばん知っている。

だから今回も、

  • 前の会社の警備員をそのまま引き継ぐ
  • うちの会社として、あらためて新任研修をやる
  • うちの制服を渡す
  • 契約日から、うちの警備員として現場に立ってもらう

という流れだった。

ぼくの感覚で言うと、

会社の看板を変えて、制服を着せ替える。

そんなイメージ。

雑に聞こえるかもしれないけど、警備の入札まわりでは、ぼくにとってこれはずっと当たり前の実務だった。

引き継ぐ段階で、「あの2人は替えてほしい」と言われた

ところが今回は、そこに一つ注文がついた。

引き継ぐ警備員のうち2人について、顧客側から、

「あの2人は替えてほしい」

という趣旨の話を受けた。

しかもそれは、会社が替わったタイミングで急に出てきた不満じゃなかった。

その2人については、顧客側から何年も、同じようなクレームが出ていたらしい。

主な内容は、

  • 「いつも寝ている」
  • 「言動が荒い」

この現場は、警備室というより設備室に近い部屋で、設備員さんたちと一緒に常駐するような現場だった。

同じ部屋で働く設備員さんたちも、その2人を問題視していた。

顧客だけじゃなく、毎日同じ空間にいる人たちからも、前から見られていた。

ぼくの立場としては、引き継ぎの段階で顧客からはっきりそう言われた以上、返事は決まっている。

「わかりました」

それだけだった。

ここは誤解されたくないんだけど、長年一緒に汗をかいて、仲間だと思うようになった相手を、悩んだ末に切った、という話じゃな
い。

ぼくがその2人と関わるのは、引き継いだこの時点からだ。

そして引き継いだ時点で、その2人はすでに「顧客から何年もクレームが出ている人」というラベルつきで、ぼくの前に渡されてい
る。

正直に書くと、その説明を受けたときのぼくは、渡されたラベルを、かなり強い言葉で受け取っていた。

「あぁ、クズか」

くらいの温度だった。

2人を、いっぺんには外さなかった

じゃあすぐ2人まとめて外したかというと、そうはいかない。

施設警備は、人がいなくなったら現場そのものが止まる。

「明日から2人来ません」で回る現場じゃない。

だからまず、募集をかけた。

わりと早い段階で、1人目の代わりになる、いい人材が見つかった。

そこで、2人のうちクレームがよりひどかった方を、先に交代させた。

そのあとも慎重に募集を続けて、次にいい人が見つかった段階で、もう1人にも交代を伝えた。

順番としては、

代わりの人を先に確保してから、1人ずつ入れ替えた。

本人たちは、そこまで言われているとは思っていなかった

ここが、あとから振り返って引っかかっているところ。

交代させた2人は、どうも、

「勤務中に寝てしまう」

という点以外については、自分がそこまで問題視されているとは思っていなかったようだった。

1人目は、クレームの数がそもそも多くて、本人にもある程度は自覚があったらしく、交代の話は比較的すんなり受け入れた。

揉めたのは2人目だ。

その2人目は、1人目が現場から外れたあと、「あの人みたいに切られないように、ちゃんとしないとね」というような話を、奥さん
としていたらしい。

その後、自分のところにも交代の話が来た。

本人は少しゴネた。

ぼくは管理する側なので、

「顧客から言われている以上、もう決まったことだから」

という姿勢を崩さず、最終的には半ば強引に進めた。

一つ、これは今のぼくの推測でしかないんだけど、

同じ部屋の設備員さんたちの態度なんかから、2人目も途中で、なんとなく自分の置かれている状況を察したんじゃないか、とは思
っている。

思っているだけで、確かめたわけじゃない。だから断定はしない。

顧客から見れば、この交代は何年もかけて溜まったものの結果だった。

設備員さんから見ても、たぶん同じ。

ぼくから見れば、引き継いだ初日にはもう「替える人」として渡されていた。

でも当の本人たちからすると、寝ていた自覚はあっても、そこまで言われているとは思っていなかった。

同じ現場にいて、同じ数年間を過ごしていても、それがどう見えていたかは、立っている位置でずいぶん違った。

2人が70歳を超えていたことについて

書いておかないといけないことがある。

この2人は、70歳を超えるくらいの年齢だった。

ただ、

歳を取っていたから外した、という話ではない。

交代の理由は、あくまで、何年も続いていたクレームと、顧客からの「替えてほしい」という要請だ。

年齢が関係していたのは、別のところ。

施設警備は、巡回のとき以外は雨風の影響もそんなに受けないし、長く同じ現場にいると仕事の中身もぜんぶ頭に入って、ルーティ
ンになる。慣れれば、自分と同じように惰性でも回る。

長年慣れて、体も楽なその現場を離れて、70歳を超えてから新しい現場をまた一から覚える。そのモチベーションは、なかなか湧か
ないだろうな、と思う。

つまり年齢は、交代の理由の側じゃなく、「じゃあ別の現場へ移ってもらえばいい」が現実的な選択肢になりにくい、という側にあ
った。

「この現場はもうない。代わりの現場もない」

ぼくが2人に伝えたのは、要するにこういうことだった。

「この現場では、もう勤務できない。うちとして、代わりの現場も用意できない」

結果として、2人には辞めてもらう形になった。

これが法律の用語でいう「解雇」なのか「退職勧奨」なのか、そのあたりはこの記事を書くにあたって確認していない。

だから、それっぽい言葉に言い換えずに、実際に起きたことだけ書いておく。

この現場からは外れてもらい、会社として次の現場も出せず、結果として辞めてもらった。

「しんどいやろな」と「こちとら仕事ですから」

感情の話も書いておく。

顧客から「替えてほしい」と言われた時点では、迷いはなかった。

管理する立場として、そこは、

「わかりました、としかならない」

という感覚だ。ここで悩んでいたわけじゃない。

一方で、

70歳を超えるくらいの人に向かって、

「この現場はもうない。代わりの現場もない」

と伝えるのは、

さすがに重かった。

特に2人目は、揉めるのが目に見えていたから、声をかけること自体が気が重かった。

自分の中の感覚をそのまま出すと、こうなる。

生活のことを考えたら、しんどいやろなぁとは思う。でも、こちとら仕事ですから。

同情したから判断を変える、ということはない。顧客の要請があって、クレームも積み上がっていて、代わりの人も確保した。やる
ことは変わらない。

ただ、機械みたいに何も感じずに処理した、というのも違う。判断は動かないまま、伝えるのは重い。その両方が、同時にあった。

当時のぼくは、「理不尽極まりない」と書いていた

ここまで、わりと整理して書いてきた。

でも、この件が進んでいた当時、ぼくがXに書いていた言葉は、少し違っていた。

当時の投稿には、こう書いてある。

10年以上勤めた現場から突然1ヶ月後辞めろと言われた2人の老人がいます。誰もが同様に歳を取ります。本人にしたら理不尽極ま
りないですよね。葛藤しつつ、チームビルドしています。

「理不尽極まりない」。「葛藤しつつ」。

今回あらためて振り返って出てきたのは、「顧客から言われた以上、わかりましたとしかならない」「判断そのものに迷いはなかっ
た」「ただ、伝えるのは重かった」という言い方だった。

同じ出来事なのに、当時の自分と今の自分で、使う言葉がそろっていない。

どっちが本当、という話でもないと思う。当時書いたのも、今こうして振り返って言っているのも、どっちもぼくが実際に使った言
葉だ。並べると食い違って見えるけど、その食い違いも含めて、そのまま置いておく。

寝てしまう警備員を、「替えれば終わり」にはしなかった

もう一つ、この現場でやったことがある。

この施設警備は、もともと1日15時間勤務だった。

そして、顧客から出ていた代表的なクレームの一つが、さっきも書いた「勤務中によく寝ている」だ。

15時間、ほぼ同じ場所にいて、起きていろ、という勤務。

新しい人を確保したあと、ぼくは人を替えるだけじゃなく、この勤務そのものも見直した。

15時間を、

前半7.5時間
後半7.5時間

に分割した。

「寝てしまう警備員を、寝ない警備員に替えれば解決」

とは、しなかった、ということだ。

もちろん、勤務中に寝るのは、本人の問題でもある。そこは変わらない。顧客も、はっきり人の交代を求めていたし、実際に人は替
えた。

ただ、15時間ぶっ通しという条件そのものが、その問題を出しやすくしていたのも確かだと思った。

だから、人と、勤務の組み方と、両方に手を入れた。

後任が入って、現場は落ち着いた

最初に入ってもらった後任の人は、かなり良かった。

おおらかで、協調性があって、能力も高い。

2人目の後任は、自治体の勤務経験がある人で、現場の話が早かった。ただ、神経質なところがあって、しばらくして辞めてしまっ
た。

そのあとに入った人も、公共機関に関係する勤務経験があって、比較的スムーズに現場に馴染んだ。

一人ひとりの話を細かくするのが目的じゃないので、このくらいにしておく。

言いたいのは、

人を入れ替えて、勤務の組み方も変えた結果、現場は落ち着いた

ということだ。

顧客満足度みたいなものを、数字で測ったわけじゃない。

でも、ぼくの実感としては、かなり上がったと思う。

突然に見える交代も、たいてい突然じゃない

こうして振り返ると、この現場でやったのは、顧客から名指しで「替えて」と言われた2人を、代わりを確保しながら1人ずつ交代さ
せたことと、「寝てしまう」を人のせいだけにせず、15時間勤務を7.5時間×2に割ったことだった。

交代させられた本人たちからすれば、ある日、交代の話が来た、という出来事だったかもしれない。

でも、さっき書いたとおり、顧客にとっても設備員さんにとっても、それは何年分かの積み重ねの先にある話だった。ぼくのところ
には、引き継いだ初日から「替える人」として渡されていた。

評価を本人にちゃんと伝えていれば違ったのか。正直、わからない。伝えたところで、15時間勤務は15時間勤務のままだったかもし
れない。

今のところ言えるのは、

人が替わる話は、外から見るとある日突然に見えるけど、たいていはもっと前から動いている

ということくらいだ。

そして、その「前から動いていたもの」の中身は、本人の問題であることもあるし、勤務の組み方みたいな、人じゃないところの話
であることもある。

今回は、その両方だった。

この記事を書いた人
福本 幸一

首都圏の零細警備会社に約30年勤務。現場の警備員から管制・人員配置・採用・教育・クレーム対応まで一通り担当しました。退職後はChatGPTやClaude Codeなどを使い、自分の経験や文体をObsidianに蓄積して活用する「外部知能」作りを実験中。タルムードなど古今の知恵も好きです。

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