管制なのに、自分が現場へ出る。
今日の穴は、それで埋まります。
でも、その間、電話は鳴り続けるし、明日の配置は誰も考えていません。
ぼくは首都圏の零細警備会社で、管制業務を担当していました。
正確に言うと、担当というより、実質ひとりで回していた時期がかなり長いです。
管制って何をしている仕事なのか、たぶん外からはほとんど見えません。
なので、まずそこから書きます。
管制って、結局何をやっている仕事なのか
管制の仕事を並べると、こんな感じです。
翌日の現場配置。
欠員が出たときの調整。
警備員への連絡。
顧客対応。
かかってくる電話の一次対応。
そして、急に空いた現場の穴埋め。
一つひとつは、まあ、わかります。
問題は、これが全部同時に降ってくることです。
しかも、これをやる人間は、会社に何人もいません。
ぼくひとりでした。
頭脳のはずの人間が、現場に出る
管制って、たぶん会社の「頭」に近い仕事です。
明日どこに誰を置くか。
どの現場が危ないか。
どの警備員とどの現場を組ませたら事故らないか。
そういうことを考える役割です。
だから普通に考えたら、管制は現場に出ちゃダメなんですよ。
頭が現場に出ている間、会社は考える人間がいない状態になる。
でも、零細企業に「普通に考えたら」は通用しません。
人が足りなければ、頭も体もない。
こっちも現場に出ます。
管制がやらかして現場に出たのですが、検見川近郊昼過ぎからずっと土砂降りでビチョ濡れでとても楽しく過ごしています
これ、当時の自分の投稿です。
「楽しく過ごしています」なんて、たぶん本気では思っていなかったと思います。
土砂降りの中、ずぶ濡れで突っ立っているのが、そんなに楽しいわけがない。
なんでこれを皮肉にして書いたのか、当時の自分の頭の中までは、正直もう思い出せません。
ただ、素直に「つらい」とは書かなかった。それだけは確かです。
今日の穴を埋めるほど、明日の手配が苦しくなる
ここからが、たぶんこの記事でいちばん書きたいところです。
管制が現場に出る。
一見、それで「今日」は解決します。
現場は埋まった。
でも、その間、ぼくは何をしていないかというと。
明日の配置を考えていない。
警備員に連絡していない。
かかってきた電話にも出られていない。
顧客からの急ぎの相談にも応じられていない。
今日の穴を自分で埋めた分だけ、明日の手配が丸ごと止まっているんです。
しかも厄介なのは、これが「今日だけ我慢すれば終わる」話じゃないところ。
今日埋めた分、明日の準備が遅れる。
明日の準備が遅れた分、明日また誰かが穴を埋めることになる。
その「誰か」も、だいたいぼくです。
当時のポストにも、こう書いています。
明日も現場だし帰るか…。
管制が現場出ても翌日手配のハードル上がって徒労感しかないんだよなぁ…
「徒労感しかない」。
まさにこれです。
今日の穴を埋めたら、明日のぼくが詰みます。
でも他にやる人間がいない。
だから結局、今日もぼくが出る。
それだけです。
これ、ぼくが優秀とか無能とかいう話じゃないんですよ。
代わりがいない。
それだけの話です。
代わりがいれば、ぼくが現場に出ている間、誰かが電話を取って、誰かが明日の配置を考えられます。
でも、その「誰か」が最初からいない。
だから、ぼくが埋めるほど、会社の”次の一手”が止まる。
頑張れば頑張るほど悪化するという意味では、なかなかタチの悪い構造でした。
電話が、追い打ちをかけてくる
そしてこの状態に、追い打ちをかけてくるのが電話です。
営業電話。
現場からの連絡。
顧客からの問い合わせ。
全部、管制の電話一本にかかってきます。
当時のポストにこんなものがあります。
今日は来月から始まる現場の引き継ぎでバタバタしててやっと会社帰ったらゴミみたいな営業電話のラッシュで明日の段取りまでなかなか手がつけられなかった
管制ひとりは常駐しとかないとやたら擦り減るだけなんだよな。
この時期だからこそ余裕持って回したいんだが…
引き継ぎでバタバタして、やっと帰社して、そこに営業電話ラッシュ。
明日の段取りには、結局手がつけられません。
「管制ひとりは常駐しとかないと」というのは、バックアップがいないということです。
倒れても、休んでも、電話に出られなくても、代わりに出る人間がいない。
これに対してぼくが実際にやっていたのが、いわゆる「3分ルール」です。
おはようございます 昨日の忙しい時間の営業電話ラッシュのせいでいまだに機嫌悪いです
仕事の電話で通話が3分を超える人は無能であると自覚してください
まず電話は働いている人の時間と集中を強制的に奪います
さらにダラダラと相手の時間を侵しています ふざけるなよ?
特に営業は頭叩き込んどけ
正直、口は悪いです。
でもこれ、単なる愚痴じゃなくて、ぼくなりの防御策でもありました。
電話が鳴るたびに集中が切れる。
切れた集中は、戻すのにまた時間がかかる。
その繰り返しで、翌日の配置を考える時間そのものが削られていきます。
「3分で切り上げろ」というのは、電話が嫌いという以上に、自分の集中を守るための最後の線引きだったんだと思います。
そうでもしないと、一日中誰かの都合に時間を持っていかれて終わります。
回せていた。でも、楽だったわけじゃない
ここまで書くと、ただただ大変な話に見えると思います。
正直に書くと、大変な話です。
月曜、欠員が3人出たことがありました。
正直、どうしようもないと思いました。
月曜3欠でどうしようもなくて困り果ててたけど、追い詰められて脳味噌振り絞って もしかしたらなんとかなりそう!
現場無くて明日休みって伝えるよりも足りない人数なんとか工面してる方がやりがいはある。
当時のぼくは、これを「やりがい」と書いています。
でも今振り返って、これが面白かったとか、やりがいのある仕事だったとかいう感覚は、正直あまりないです。
誰と誰を組み替えれば成立するか。
どの現場なら多少経験の浅い人でもいけるか。
それを、追い詰められた状態でひとつずつ潰していく。
たぶんこれ、「面白い」でも「楽しい」でもなくて、
持ち前の、高ストレス下でも仕事を止めない能力が、フル稼働していただけ
だったんだと思います。
現場をなくして「明日は休みです」と伝える方が、たぶん楽です。
それでも、崩壊だけはさせませんでした。
必要なところだけは、なんとか落とさなかった。
我慢しながら、回し続けました。
会社に都合よく使われていただけ、と言いたいわけでもないし、これが天職だったと言いたいわけでもありません。
当時のぼくが「やりがいはある」と書いた。それも事実です。
今のぼくが、それを同じようには思えない。それも事実です。
両方とも、無理にどちらかへそろえるつもりはありません。
「回っている」と「健全に回っている」は別だった
ただ、ここではっきりさせておきたいことがあります。
崩壊させずに回せていたことと、その体制が健全だったことは、まったく別の話だということです。
ぼくが高負荷でも回し続けてしまったから、たぶん会社から見れば「回っている」状態でした。
でも、電話を取る人間も、配置を考える人間も、ひとりしかいない。
回っているように見えるだけで、健全ではないです。
これ、ぼくが優秀だったから成立していたことでもないんです。
むしろ逆で、電話に出られる人間がもうひとりいれば、そもそもぼくが我慢する必要もなかった話です。
管制がひとりしかいない。
その人間が現場にも出る。
出れば出るほど、明日の手配が苦しくなる。
それでも、崩壊まではいかなかった。
崩壊しないから、変える必要がある、というふうにはなかなかなりません。
無理な体制でも、外からは「ちゃんと回っている」ように見えてしまう。
たぶん、これが一番厄介なところでした。
「ぼくがひとりで会社を支えていた」と言いたいわけでもありません。
ただ、代わりがいない状態を、ぼく自身も、会社も、結果的にそのままにしてしまった。
それだけの話です。
最低限の引き継ぎを終えて、辞めた
結局、この管制ひとり体制は、最後まで十分に分担されることはありませんでした。
途中で誰かが本格的に入って、半分ずつ持つ、みたいなことにはならなかったです。
ぼくが退職を決めたあと、引き継ぎ担当が来ました。
そこから、できる範囲で引き継ぎをしました。
長年かけて育てたわけでも、完璧に整えて渡したわけでもありません。
最低限の引き継ぎを終えたところで、辞めました。
それ以上でも、それ以下でもないです。
管制がひとりしかいない。
その人間が現場にも出る。
出るほど、明日が苦しくなる。
それでも、崩壊だけはさせませんでした。
面白かったからじゃないです。
そこは、当時のぼくがXに書いた「やりがいはある」という言葉と、今のぼくの感覚が、たぶんズレています。
ぼくが優秀だったから、この状態が保っていたわけでもない。
単純に、電話を取る人間も、配置を考える人間も、最初からひとりしかいなかった。
それだけで、組織はけっこう簡単に脆くなるし、脆いままけっこう長く回ってしまうんだな、というのが今のところの実感です。


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