「良いEAなんてない」と説教したぼくの「人生逆転」は、会社から逃げる計画だった

消耗する会社の盤面から降り、実家へ向かう会社員 古今の知恵・処世術

現場のFX爺さんに、滔々と説教したことがある

新年早々、現場を見回っていた。

ある現場で、高齢の隊員が「FXを研究している」と言い出した。

ぼくは滔々と説教して帰った。当時のXには、こう残っている。

新年早々現場を見回って来たらある現場で爺さんがFXを研究してるとか言ってたので滔々と説教して来たw
いや、この歳でロクに貯金もないし…とか絵に描いたような敗けパターン踏んでてこういう人が餌食になってんだろなw
FXは丁半博打!勝ち続ける人なんていないし、良いEAなんてない!!!!ww

我ながら容赦がないw

FXは上がるか下がるか、自分では動かせない市場に金を張る。少なくとも当時のぼくには、丁半博打にしか見えなかった。

本当に誰でも勝てるEAがあるなら、それを使って儲ければいい。わざわざ他人に売っている時点で、確実に儲かるのはEAを買った人より、売った人のほうじゃないのか。

その隊員が、その後どうなったのかは知らない。ただ、あのとき言ったことを、今でも全部間違いだったとは思っていない。

問題は、説教した側のぼくである。

同じ口で「人生逆転」と叫んでいた

2025年7月4日、ぼくはXにこう書いていた。

わーー!!!!
かなり現実的な人生逆転させる方法思いついてしもうた!!!!
これまでの重ねた学習とChatGTPがかけ合わさってものっそいパラレルを現実に手繰り寄せられるやんけ!!!!
やっべぇコレ、首都圏くんだりでくすぶったリーマン生活やってる場合じゃねぇぞコレ?!!!

※地名のみ、公開用に本人が置き換えています。

「ChatGTP」は原文ママである。GPTの並びまで逆転している。興奮のほどだけは伝わる。

それにしても「!」が多い。

数年前、FXを研究していた人に「うまい話の餌食になるぞ」と説教した男が、今度は自分で「人生逆転させる方法を思いついた」と叫んでいる。

同じ人間の中に、うまい話を疑うぼくと、うまい話を見つけて興奮するぼくがいた。完全に同一人物である。

では、ぼくが思いついた「人生逆転」とは何だったのか。

立派な志があったわけではない。

会社員生活で、もう消耗しきっていた。

まず、あの地獄から逃れたい。

逃げたあとどうするか。家業を引き継ぐことを言い訳にして、親のすねをかじりながら、しばらくぶらぶらしよう。

だいたい、そんな計画だったw

約120万円は「勝ち金」だったのか

きっかけは、師匠のひとりから退職支援というサービスを紹介されたことだった。

制度を利用すれば給付があること自体は確信していた。ただ、実際にいくら支給されるかまでは分からなかった。

そこに、実家へ戻ること、生活コストを下げること、家業を引き継ぐこと、借金を減らすことを並べた。ChatGPTは、存在しない裏技を教えてくれたわけではない。もともと目の前にあった材料を、逃げ道として一本につなげるのに使った。

2025年8月、ぼくは会社を辞めて実家へ戻った。

翌年3月24日、家業を個人事業として開業した。必要な書類をそろえて申請し、5月14日、再就職手当1,207,630円の支給が決まった。そのうち約50万円を借金の返済に回した。

数字だけ見れば、計画はかなり現実になっている。

ただし、約120万円は人生を一生安泰にする金額ではない。それで借金が全部消えたわけでも、事業が成功したわけでもない。

まして、ぼくが崇高な使命に目覚めて会社を飛び出したわけでもない。

本音は「もう逃げたい」だった。

賭けていたのは、成功ではなく逃げたあとの時間だった

『バビロニア・タルムード』の「サンヘドリン」24bには、金を賭けてサイコロ遊びをする者が証人資格を失う理由について、「世の中を成り立たせる営みに関与していないからだ」とする議論がある。

ただし、これは賭け事をした人間を片っ端から信用するな、という話ではない。議論の対象は、ほかに職を持たず、賭博で身を立てる者である。

だから、この話を持ち出して、警備員として働いていたあの隊員を「価値を生まない人」と裁くことはできない。

むしろ、この物差しを向けるべきなのは、ぼくのほうだろう。

「人生逆転」と叫びながら、再就職手当と実家と親を当てにして、ぶらぶらしようとしていたぼくは、世の中を成り立たせる側にいたのか。

正直、当時の気分だけなら、ずいぶん怪しいw

それでも、FXで一発当てる話とは違うところがあった。

会社に残れば、給料は入る。その代わり、時間と気力は確実に削られ続ける。ぼくにとっては、そちらの損失のほうが、もう予測可能になっていた。

辞めた先で成功できる保証はない。でも、退職する、実家へ戻る、毎月の支出を下げる、書類をそろえる、家業を引き継ぐ。そこまでは、自分で動かせる。

ぼくが賭けたのは、何もしなくても金が増える未来ではない。

逃げたあとに残る時間と気力を、もう一度何かに使えるかどうかだった。

人生逆転の正体は、まず逃げることだった

「会社を辞めて、そのあとどうするの?」

辞めようとする人は、たぶん何度も聞かれる。

もちろん、先の計画はあったほうがいい。生活には金がかかるし、勢いだけで辞めれば困ることもある。

でも、消耗しきった人間に、逃げたあとの立派な人生設計まで完成させろというのは、なかなか酷な話でもある。

当時のぼくにあったのは、成功の設計図ではなかった。

使える制度を確認する。生活コストを下げる。借金を少し減らす。家業を言い訳にして、とにかく帰る。

その程度である。

それでも実際に逃げてみると、家業を引き継ぎ、Webサイトや予約の仕組みを整え、こうして記事まで書いている。ぶらぶらするつもりだったわりには、思ったよりいろいろやっているw

「AIがあれば人生逆転できる」と言うつもりはない。

あのときChatGPTがしてくれたのは、ぼくを勝たせることではなく、逃げ道として使えそうな材料を一緒に並べることだった。

人生逆転と叫んでいたけれど、実際にやったのは、一発で勝つことではない。

負け続けると分かっていた盤面から、先に降りた。

そのあと何をするかは、降りてから考えた。

ずいぶん格好の悪い人生逆転だけど、今のところ、ぼくにはこれくらいがちょうどいい。

この記事を書いた人
福本 幸一

首都圏の零細警備会社に約30年勤務。現場の警備員から管制・人員配置・採用・教育・クレーム対応まで一通り担当しました。退職後はChatGPTやClaude Codeなどを使い、自分の経験や文体をObsidianに蓄積して活用する「外部知能」作りを実験中。タルムードなど古今の知恵も好きです。

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