「明日3人足りない。」零細警備会社の管制は、そこからどう現場を埋めていたか

警備業界・零細企業

朝、出社して管制ボードを眺める。

最初に見るのは、

「明日、あと何人足りない?」

だった。

特に12月から年度末にかけては、工事が増える。工事が増えれば、当然そこに必要な警備員も増える。

「明日3人足りない」

「こっちはあと2人」

そんな状態が珍しくなかった。

で、年度が変わると今度は現場が減る。

昨日まで人が足りなくてヒーヒー言ってたのに、今度は、

「明日、この人入れる現場がないわ……」

となる。

どっちにしろ頭抱えとるやないかw

ぼくは警備会社で30年近く働いたけど、管制という仕事はだいたいそんな感じだった。

ただ、単純に「足りない人数を集めれば終わり」という仕事ではない。

むしろ、本当に面倒なのは人を集めてからだった。

まずは「明日の人数」を揃える

翌日の人数が足りないことは、たいてい前日には分かっている。

まず自社の配置を見直す。

それでも足りなければ、普段から付き合いのある他の警備会社へ電話する。

「明日、○○の現場で2人お願いできませんか?」

一社でダメなら二社目。

二社目でもダメなら三社目。

応援を出してもらえることになったら、今度は現場の地図、集合時間、勤務時間、必要書類、現場特有の注意事項なんかをまとめて送る。

人だけ押さえて、

「じゃ、よろしく!」

で終わるわけじゃない。

知らない会社の隊員が、知らない現場へ翌朝行って、ちゃんと仕事を始められるところまで準備して、ようやく一件終わる。

だから普段から他社との関係も必要だった。

困ったときだけ突然、

「明日5人ください!」

って言われても、向こうだって困るw

ここまでは、まだ「人数を揃える仕事」。

問題はそのあと。

人が足りないときほど、「優秀な人だけ」は選べない

年度末。

現場は多い。

人はいない。

協力会社にも電話しまくっている。

そんなときに、

「この現場には最高ランクの人材だけを揃えよう」

なんてことは、まずできない。

そもそも最高ランクの人がそんなに余ってない。

だから管制で考えていたのは、

「誰が優秀か」より、「今いる人をどこに置けば全部の現場が成立するか」

だった。

ここが、たぶん一番経験が必要だった。

「できる人・できない人」の二択では見ていなかった

警備員を、

「できる人」

「できない人」

の二種類に分けても、現場は回らない。

たとえば、片側交互通行はちょっと任せられない。

でも通行止めなら問題なくできる。

歩行者誘導なら丁寧にやれる。

そういう人は普通にいる。

あるいは、複数人の現場へ入れると周囲と揉める。

ところが一人現場を頼むと、

「ぜひ行きます!」

と喜んで行って、何の問題もなく仕事をして帰ってくる。

だったら、その人を無理に複数人現場へ入れる必要はない。

ぼくが見ていたのは、

「この人は使えるか?」

じゃなかった。

「この人は、どんな条件なら戦力になるか?」

だった。

片交は難しい。でも通行止めならいける。

複数人だと揉める。でも一人なら安定する。

厳しい監督の現場では難しい。でも比較的落ち着いた現場なら任せられる。

人間丸ごとに「○」「×」をつけるんじゃなくて、

人と仕事の組み合わせを見る。

30年近く管制をやって、これはかなり染みついた。

一人ひとり見たあと、今度は「組み合わせ」を考える

複数人現場なら、さらに面倒になる。

経験の浅い人だけを集めるわけにはいかない。

でも、ベテランだけですべての現場を固めるほど人数はいない。

だったら、

経験のある人と、まだ不安のある人を組ませる。

重要なポジションには経験者を置く。

経験の浅い人には、比較的影響の小さいところをお願いする。

要求の厳しい監督がいる現場なら、状況判断が速くて、ある程度自分で動ける人を優先する。

要するに、

最高の人材を集めるんじゃない。

手元にいる人間を組み合わせて、チームとして成立させる。

これが実際の人員配置だった。

しかも、人間同士には「相性」がある

さらに厄介なのが、能力だけ見てもダメなこと。

人間なので、相性がある。

仕事はできる。

でも、あの人とは合わない。

あの監督とは毎回揉める。

この二人を組ませると、なぜか現場の空気が悪くなる。

そんなことも普通にある。

以前、ぼくが応援で入った現場では、別会社の隊員同士の人間関係がこじれまくっていて、

「あなた、あの人に言われて私を監視してますよね?」

みたいな話になっていた。

……知らんがなw

とはいえ管制する側に回れば、「知らんがな」で済ませるわけにもいかない。

業務内容。

能力。

経験。

監督との相性。

他の隊員との相性。

そこまで見て、

「このメンバーで明日一日、本当に回るか?」

を考える。

空いている人を、空いている現場へ入れるだけなら簡単。

でも、それだけでは現場は成立しない。

それでも埋まらなければ、最後は自分が行く

自社で組み直す。

協力会社へ頼む。

組み合わせを変える。

それでも一人足りない。

最後に残るのは、

「じゃあ、自分が行くか」

だった。

実際、ぼく自身が最後の穴埋め要員になることは多かった。

その結果、何かあれば自分が埋めるのが当たり前になって、仕事がどんどん属人化していった。

これは今振り返れば、いい仕組みだったとは思わない。

むしろ零細企業でよくある、

「できる人が何とかしてしまうから、仕組みが直らない」

状態だったと思う。

でも当時は、そんなことを考えている余裕もない。

明日の朝、現場は始まる。

警備員が足りないから今日は工事できません、で済む話でもない。

だから、とにかく明日を成立させる。

その繰り返しだった。

管制でやっていたのは「人集め」じゃなかった

振り返ってみると、管制でやっていたことは単なるシフト作成でも、人集めでもなかった。

限られた人員の中で、誰をどこへ置けば全体が成立するかを判断する仕事だった。

優秀な人だけを集められるなら簡単だ。

でも現実の会社は、そんな都合よくできていない。

得意な人もいる。

苦手な人もいる。

経験の浅い人もいる。

人と話すのが得意な人もいれば、一人で仕事をした方が力を出す人もいる。

そのとき、

「あいつは使えない」

で終わらせるのは簡単だった。

でも、

「じゃあ、どこなら戦力になる?」

まで考えると、使える人は増える。

これは警備会社を辞めた今でも、かなり残っている感覚だ。

人そのものに点数をつけるんじゃなくて、

人と役割の組み合わせを見る。

30年近く警備会社にいて身についたものはいろいろあるけど、これは案外、他の仕事でも使える考え方なのかもしれない。

ただ当時のぼくは、そんな立派なことを考えていたわけじゃない。

毎朝シフト表を見ながら考えていたのは、もっと切実なことだった。

「で、明日の現場どうやって埋める?」

それだけだった。

この記事を書いた人
福本 幸一

首都圏の零細警備会社に約30年勤務。現場の警備員から管制・人員配置・採用・教育・クレーム対応まで一通り担当しました。退職後はChatGPTやClaude Codeなどを使い、自分の経験や文体をObsidianに蓄積して活用する「外部知能」作りを実験中。タルムードなど古今の知恵も好きです。

福本 幸一をフォローする
警備業界・零細企業
シェアする
福本 幸一をフォローする

コメント

タイトルとURLをコピーしました